バルテュス《鏡のなかのアリス》(1933)における「稚拙さ」
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概要
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本稿は画家バルテュス(Balthus,本名バルタザール・クロソフスキー・ド・ローラ,1908-2001)の油彩画《鏡のなかのアリス》(1933年)(図1)を取りあげて,バルテュスの芸術的特性を「稚拙さ」すなわち技術的貧困さという見地から考察するものである。具体的にはまず作品の文脈を説明し,画面構成と色彩配置,光源の設定,人物像や椅子等の造形を吟味する。次に同時代の他の作品,特に1934年のパリ,ピエール画廊個展に出品された大作-《窓(幽霊の恐怖)》(1933年)(図2),《街路》(1933年)(図3),《キャシーの化粧》(1933年)(図4),《ギターのレッスン》(1934年)(図5)-との比較によって,本作の特性を明らかにする。その結果提示される結論は,以下の通りである。バルテュスの芸術家としての独自性は,画家自身の「稚拙さ」-デッサンの拙さ,迫真性の不足,絵の下手さ-にある。そしてまた人物像の造形上の問題点や鑑賞者への働きかけの乱暴さといった「稚拙さ」が,《鏡のなかのアリス》を魅力的にみせる要因となっている。