イギリスの海事政策・帝国・不定期船業 : 1910-1960年
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概要
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本研究は、イギリスの海運業と帝国の歴史がどのような関係にあったかという点を明らかにするために、定期船業と比較してこれまであまり検討されてこなかった不定期船業を対象としてとりあげ、イギリス帝国が重要な変化を遂げた20世紀前半に注目して検討を加えたものである。不定期船業は、中小の海運業者がひしめきあっているためにその実態を解明するのは著しく困難な面がある。本研究では、スコットランドのホガース・グループに焦点をあて、当該時期の不定期船業の動向と政府の政策および英帝国との関係を究明した。そこで得られた結論は、次のようなものであった。イギリス海運業全般とは異なり、不定期船業部門は当該時期において衰退した。この衰退は1930年代にはじまり、その後30年間にわたりほとんど中断なく進行し、その結果、イギリスの国際収支のマイナス要因となった。不定期船業部門の構造が衰退の一因であった。すなわち、家族所有の小規模企業が数多く存在する産業構造が常態であったために、互いに激しく競争しあう傾向があり、産業を襲った大きなショックをうまく乗り切るには貧弱すぎたからである。衰退の重大な要因は世界経済の変質であった。それは、海運サービスにとって帝国市場が大きな構成要素をなしていた開放的な体制からイギリス船にほとんど利益をもたらさない相対的に閉鎖的な体制へ変化してしまったのである。政府は、こうした国際的動向に対してほとんど統制力も発揮できず、長期にわたってイギリス不定期船業をその影響から守ることなどできなかった。したがって、政府の海運政策は、不定期船業の困難を助長したのである。