香港の離婚紛争に関する一考察
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概要
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香港の現行離婚制度は「婚姻訴訟条例」(1972年修正)に基づき実施されている。同法に至って始めて婚姻破綻主義が導入されたのであるが,有素主義的な側面は示だ払拭されていない。有責離婚,破綻離婚,合意離婚という3つの選択が可能で,また離婚を拒絶する苛酷条項を,離婚判決に影響を及ぼす事由として残している。離婚後の扶養義務者の決定と扶養義務の程度の算定は,双方の婚姻破綻前の経済的地位の確保の原則に基づいて実施されているが,同法の特質上,しばしば有責主義的な要素が登場してくるように思える。離婚後の親子関係には,むしろ「離婚に対する抵抗力」を持たせようとする意図がうかがえる。子女の福祉を最優先とした監護権の帰属や面接交渉権等がそうである。現行の離婚制度においては裁判離婚のみ有効であるが,その中で例外的に認められている行政機関における協議離婚がある。それは旧式及び新式婚姻の場合の離婚である。香港の離婚現象とその背景において,特に顕著であったのが,女性の労働市場進出の増大である。工業化の進展に伴う女性労働力の需要増加は,女性の労働市場進出を促進し,その経済的・精神的自立を促進したばかりでなく,教育水準の向上も手伝いその社会的地位をも向上させた。そしてこのことは「人格的結合と経済的依存との二面性を有する婚姻を前者へと純化」させていった。「人格」を配偶者選択の最も重要な基準とする傾向は,このことの現れであろう。従って,人格的結合の阻害や崩壊につながる要素は,離婚の動機付けとなってゆくのである。一方,こうした女性の労働市場進出は,種々の矛盾を顕現化させた。即ち,家父長制的な観念及び家父長制的な役割分担との間の矛盾である。具体的には,夫の家事労働分担率の低さ,虐妻・虐児問題等となって現われている。英国の植民地香港の離婚法とも言うべき「婚姻訴訟条例」(1972年修正)は,実際は,英国の1969年改正離婚法が香港に導入されたものである。そしてその後はあまり大きな改正はなされていない。香港の今後の離婚制度を考えてゆく上で,英国のその後の離婚問題に対処してきた種々の経験を参考にすることは,あながち無意味ではないと思われる。昨今,香港において離婚制度改正のいくつかの提案がなされている。それらは,婚姻破綻前の経済的地位の確保条項削徐と「クリーン・ブレイク」導入を徐いては,英国の経験に類似してきているようである。ともあれ,今後の離婚紛争処理については,婚姻・離婚の質及びそれらを規定する社会的経済的そして歴史的文化的要素を十分考慮した上で,また特に社会保障諸制度との相互作用も検討しながら対応して行くことが望まれるところである。
- 創価大学の論文
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