p53,K-ras,EGFR遺伝子変異からみた肺腺癌の細胞亜型分類の有用性の検討
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概要
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【目的】肺腺癌は多彩な組織像を示すが,現在のWHO分類は発癌原因や臨床経過,遺伝子情報を反映せず有用でない.それぞれの癌細胞の形態によって分類する細胞亜型分類は,多くの癌の発生に重要なp53遺伝子変異を反映し,病理像から発癌原因を推測できる。本研究ではp53に加えて,肺腺癌の増殖・進展・治療に重要なK-ras及びEGER遺伝子変異を分析し,この分類がこれらの遺伝子情報も反映しWHO分類に比べ有用であることを証明する.【対象・方法】肺腺癌切除症例223例を対象とし,独自の細胞亜型分類;鋲釘型,円柱立方型,杯細胞型,多角形型,混合型の5型,及びWHO分類で分類した.遺伝子解析は,新鮮凍結腫瘍組織から癌細胞をマイクロダイセクションした後ゲノムDNAを抽出し,p53はSSCP-PCR-Direct Sequence法でexon4-8及びexon10を,K-rasはMASA法でcodon12を,EGERはLH-MSA法でexon19,exon21を調べた.そして,細胞亜型分類及びWHO分類のそれぞれの亜型と,これら遺伝子変異の有無や,喫煙状況,性別,病期など臨床病理学的因子との相関関係を統計学的に解析し,どちらの分類が有用であるか検討した.p<0.05を有意水準とした.【結果】p53変異頻度はどちらの分類においても亜型間で有意差を認めたが,発癌原因を推測する根拠となるp53変異スペクトラムでは細胞亜型において有意差を認め,CpG領域のG→Aトランジションが鋲釘型に多く,G→Tトランスバージョンは円柱立方型に多く,欠失/挿入は混合型に多かった.すなわち非喫煙者には鋲釘型が発生しやすく,喫煙者には円柱立方型が発生しやすいといえる.K-ras変異は杯細胞型の全症例に認められ有意に多かったが,WHO分類の亜型では差は認められなかった.EGFR変異は,細胞亜型分類の鋲釘型で多く,他の全ての亜型に対して有意差を認めた.杯細胞型では変異症例は無かった.一方WHO分類では多くの亜型で同程度の変異頻度となり,腺房型のみ頻度が低いという結果だった.ここから,細胞亜型分類では分子標的治療薬Gefitinibが奏効する症例を推測可能であるといえる.【結論】肺腺癌の細胞亜型分類はWHO分類では表すことのできない遺伝子変異や発癌原因を反映しているので,臨床において簡便に利用でき,かつ臨床経過や治療効果を予測可能にする有用な分類である.
- 新潟大学の論文
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