確定拠出年金の評価と課題(笹井均先生退職記念号)
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概要
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笹井均先生退職記念号わが国の企業年金制度が本格的に普及したのは1960年代に入ってからであり,その歴史はまだ半世紀に満たない.しかし,21世紀に入って以来,企業年金の分野では急速な変化が生じている.そのきっかけになったのは,2000年度から導入された退職給付の新しい会計基準の適用であり,あわせて2001年度から3年連続して起こった未曾有の年金資産運用の不振であった.これにより,企業は認識すべき債務の急増と保有資産の大幅な目減りという二重の衝撃を受けることになり,企業年金制度の内容そのものを再検討せざるを得ない状況になった.さらに,長引く不況の中で倒産する企業や生き残りをかけて雇用調整を行う企業が続出し,戦後定着していた終身雇用慣行が維持できなくなる中で,個人の労働観の変化や雇用の流動化に対応する視点からも企業年金を含む退職給付制度全般の見直しが必然となってきた.そうした中で2001年10月からスタートした確定拠出年金(企業型)は,4年後の2005年9月には実施件数1,566件,加入者数では156.3万人(2005年8月末)の規模にまで増加した.また,資産残高についても1兆円を超過した.このようにわが国でも確定拠出年金は急速な普及とはいえないものの,着実に増加しており,企業年金の一角を占める重要な存在になってきている.また,同業種や地域的な繋がりをベースとする総合型の枠組みを利用した制度も相次いでスタートしており,スケールメリットを生かして,コスト削減効果を狙ったものとして注目を集めている.代行返上や基金解散が一段落した後のわが国の企業年金制度においでは,企業や従業員のニーズの多様化を反映して,従来からある確定給付タイプの年金制度にポイント制の体系を導入したり,キャッシュバランス制度に変更する動きが加速している.これと並行して,退職給付制度の一部として確定拠出年金を導入する企業が今後ますます増加していくと予想され,給付建て制度と掛金建て制度が共存して,発展していく時代に入ったといえる.本稿は,確定拠出年金の4年の実績を振り返ってこの制度を評価し,その内容を再検討するとともに,将来に向けた課題を整理したものである.
- 横浜国立大学の論文