今昔物語集の漢語サ変動詞 : 複合動詞の構成を通して
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概要
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今昔物語集の語彙には漢語サ変動詞が多く含まれているが,多くは単独動詞の用法であり,「動詞連用形+動詞」の複合動詞を構成する例は全体の一割にも満たない。これは,今昔物語集の漢語サ変動詞自体の熟合度が低いため,他の動詞と結びついて複合動詞を形成することが少ないためであると推察される。そこで,複合動詞を構成する用例において,漢語サ変動詞がいかに用いられているかを調査すると,前項にのみ用いる例は,後項要素として「畢ル(ヲハル)」を採る例が多い。また後項にのみ用いる例を見ると,前項には「相ヒ」などのような漢文訓読文に用いる接頭語的な用語が多く見られることがわかった。後項にのみ用いる例は,このような接頭語的なもの以外を採る場合では,出典に見られる漢語を翻案した結果として複合動詞の後項になっている場合が大部分を占める。前項と後項に用いる例では,「愛シ悲シム」「悲シミ愛ス」のように前項と後項を入れ替えて用いる例があり,仏教的な内容を表す独自の複合動詞と見られるものもある。また,今昔物語集の漢語サ変動詞には,名詞性の漢語を語幹とした珍しいものも含まれているが,これらは口頭語において自由に使われたものと言うよりは,むしろ臨時的に複合動詞を創出した例ではないかと推測される。これらのことは,従来,今昔物語集の文体が漢文訓読文に傾くと言われていることと関わっており,編者が,漢文訓読語的な位相の用語を好んで用い,それによって独自の文体を成していった表現行為の結果であると見ることができる。
- 同志社大学の論文
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