新潟県粟島における観光業の実状と今後の展開
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概要
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はじめに:近年の観光開発は、開発業者による大規模な土地改変を伴うリゾート開発に代わり、自然環境の保全を前提とする体験型、対話型の観光を提案する開発が主流になっている。体験型、対話型の観光は、環境論的な観点から肯定されるとともに、開発費用を大幅に縮小することから、 主に地方の地域振興策の一つに採用される場合が多い。また、原則的に「人の手を加えない」 開発であることから、地域内の歴史的遺物や文化資産と絡めることが容易であり、街並保有や 文化伝承に関わる議論にまで展開させることが可能である。体験型、対話型の観光は、ローリスク、ローコストであるがゆえに、提案しやすく、受け入れられやすい開発であるといえる。しかしながら、観光を産業としてみた場合、産業の育成には資本投下が不可欠であり、投下 資本量に応じた生産性の向上が利潤を増加させ、地域経済を活性化させる。体験型、対話型観光の提案者は、ローリターンであることに触れず、環境保全や地域アイデンティティ創出の重要性を強調する。もちろん、それらが重要な案件ではあることは明らかであるが、地域政策を 立案する大前提は地域住民の生活向上にある。地域住民はローリターンの開発であることを認識し、開発の努力が実を結ぶまで耐え続けなければならないというのは閣発者側の論理であり、住民は分かりやすい短期的な成果を期待する。観光政策の実施に伴い、観光客のマナーの悪さや地域住民の負担過多といった問題も指摘さ れている。目標到達までの時聞が長期化するほど地域住民の意識は希薄化するであろう。地域振興策あるいは地域活性化策のーつとして観光開発を挙げる以上、経済的な効果を明確にし、短期の目標を積み上げることによって、地域住民の観光開発に対するモチベーションを維持する工夫が必要であると考える。住環境の悪化を望む住民はいない。地域住民は目に見える変化に敏感であり、自らの経済状 態を含め短期的な変化から状況を判断する。一方、政策者は、長期的な視野から全体を捉える必要がある。政策者側の意図に対する住民のコンセンサスが政策の成否を決定すると言える。とくに、観光資源に関しては、地域住民の関心が高く、積極的な活動も多く観察される。体験型、 対話型の観光開発を効果的に継続していくためには、個々の住民活動を正確に把握し、それらを地域内の経済活動に結びつける方向性を明示することが必要である。新潟県の粟島では、2006年より半農半漁の島内生活を体験するグリーンツーリズムの導入が 検討されている。労働力も資本も乏しい離島においては、できるだけ省力的な方策が望ましい。そのため、体験型、対話型の観光を主体にした観光戦略の再編は、粟島の今後を左右する重要な政策であると考えられている。そこで、本研究では、粟島における産業構造の変遷から、グリー ンツーリズム導入までの経緯を明らかにし、今後の展望と課題を指摘する。経済的な利益にとらわれない新たな観光開発のあり方として提案されてきたグリーンツーリ ズムに経済的な効果を求める見方に反論もあろうが、実状に即した観光開発の一つの方向性と して粟島に導入されるグリーンツーリズムを紹介し、その有効性と問題点を指摘することは、 画一化されつつあるグリーンツーリズムを再考するためにも意義のある作業と考える。
- 2009-02-15
著者
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