自己感情論の展開
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概要
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現代は感情の時代であるともいわれるように、感情が人びとの熱い関心を集めるトピックのひとつになってきている。社会学者のC・H・クーリーは自我を「自己感情」としてとらえ、その「自己感情」が「鏡に映った自我」として他者の認識や評価を想像を通じて知ることによって形作られるものとしている。自我研究においては、これまで自我を認知的にのみに捉え、感情を扱わない自我認識論であった。また、感情論においては感情と認知とは無関係であるとされ、人間の感情を動物と同じ生物学モデルによって捉える生物学的感情論であった。その結果、誇りや恥などの自己意識的感情は無視され、排除されてきている。これに対して、自己意識的感情研究は自我と感情を結びつけ、発達における第2次的感情の発生を明らかにし、感情の認知的側面をクローズアップした。そして、自我との関係において、感情が他者の相互作用過程において自己意識的に生み出され、また、自我との関連如何によって、異なる感情が生じることを明らかにした。社会学者のE・ゴフマンは感情を正面から問題とし、感情の社会性、とくに感情表現の社会性と自己意識的感情を問題とした。ゴフマンによると、ひとが他者との相互作用において自己を意識すると困惑が生じ、困惑の状況を回避するために感情を意識的にコントロールする印象操作がなされるようになる。ゴフマンの研究はクーリーの自己感情論を継承し、延長、発展させるものとなっている。このような自己感情論は感情の社会的形成を明らかにするだけではなく,感情の主体的形成をも問題とする必要がある。人間の内省過程において、既存の感情が解釈され、新しい感情が創発されてくる。そのことによって、感情表現の変容のみならず、感情そのものの変容も行われるようになる。