『序曲』における山岳風景の意味
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概要
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本論文は、イギリスロマン派詩人ウィリアム・ワーズワスの『序曲』に描写された山岳風景の意味を考察するものである。大自然の中でのワーズワスの諸体験の特徴は、大自然による人間の精神へ働きかけと、それに呼応する人間精神からの想像力/創造力の働きという、相互の交感体験である。ワーズワスの少年時代の山体験は、子供らしい遊びを通して、大自然との交感体験の下地を積み重ねてきた。山が示す美しい姿に魅了されただけでなく、山の恐ろしい姿も精神の成長に大きく寄与した点が注目される。青年時代の山体験は、実際の登山体験によって直接目にした崇高美の眺望により、精神の成長・発達が頂点に達した点が注目される。ワーズワスはそのときの山の風景を、精神の働き様が具現化されていると解釈した。大自然と精神との交感体験の究極の形という意味において、啓示的な体験であり、非常に意義深い体験であった。従って、『序曲』における諸体験の描写の中でも、山体験は重要な位置を占めるのである。