フォーレが捉えた「眠り」の意味 : 歌曲《トスカーナのセレナード》op.3-2における詩と音楽の関わり
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概要
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本論文では、私の博士課程における研究テーマであるフランス近代の作曲家ガブリエル・フォーレの歌曲作品を取り上げ、その楽曲に見られる詩と音楽の関わりを考察する。 1870年代、フォーレは歌曲作曲にあたり、イタリア趣味を思わせる傾向にあった。また、当時のフォーレが選択した詩を見てみると、ロマン派、高等派を代表する大詩人たちに並んで、詩作を専門としないアマチュアの詩人の作品も積極的に取り上げている事が分かる。 彼の歌曲作品の中で最も知られている≪夢のあとに Apres un reve≫(op.7-1,1877)もこの時期に書かれたものであるが、それに続けて作曲された数曲の中に≪トスカーナのセレナード Serenade toscane≫(op.3-2,1878?)がある。この2曲の詩は、アマチュア詩人であり、フォーレの友人でもあったロマン・ビュシーヌが、イタリア語の詩を仏訳したものである。ビュシーヌは、基の内容を尊重しつつも、フランス語の持つ独特のニュアンスや響きを生かして、原詩の世界と表現を膨らませいる。 また、これらの歌曲で興味深いのは、その譜面である。一般的には、フランス語での歌唱が求められる曲であるのに、フランス語の歌詞の下には、イタリア語の詩も書かれているのだ。それはどのような理由で譜面にかかれることとなったのであろうか。 ≪トスカーナのセレナード≫は、≪夢のあとに≫と比べて今日演奏される機会が多いとは言えず、楽曲成立に関する明確な情報もほとんど知られていない。本稿では、歌曲≪トスカーナのセレナード≫に焦点を当て、その限られた資料を基に、作品の成立に至るまでの経緯の推測と楽曲分析を行い、フォーレがこの歌曲を通して捉えた「sommeil 眠り」の意味とはどのようなものだったのかを考察する。なお、この歌曲の基となった原詩と、ビュシーヌによって展開された仏訳詩の内容を比較研究し、その違いが持つ意味を探る。また、それらの詩からフォーレがどのような構想を得て、音楽を展開していったのかなども合わせて考察することを目的とする。