『うつほ物語』の「絵解本文」小考 : その内容と役割について
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概要
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『うつほ物語』には、従来「絵解」と称されている本文があるが、それについてはまだ定説をみない。「絵解」の呼称と「絵解」の指摘箇所も、『空穂物語考』(近世)から『新編日本古典文学全集』(一九九九-二〇〇二)までの12本の諸注釈書類の間で必ずしも一致していない。つまり、ある箇所を「絵解」とみるか、「物語本文」とみるかについて揺れがあるということである。そこで「絵解」を「絵解本文」と称し、従来いわれている「絵解本文」143箇所(『うつほ物語全(おうふう)』に拠る)について、「絵解本文」として読めるか「物語本文」として読むべきであるかを再検討したところ、143箇所中、56箇所は「物語本文」として読むべきであるという結論を得た。また、従来の「絵解本文」の内容をみると、物語前半部では具体的な場面の描写をするものが多く、物語後半部では場所の指定をするだけのものが多い。これを踏まえて、「物語本文」と「絵解本文」との関係を検討した。日常のエピソードの記事・景観記事・誕生記事を例として取り上げ、描写の内容を精査した結果、物語前半部では、「物語本文」を「絵解本文」が補うかたちで一つの場面が描かれているのに対し、物語後半部では、「物語本文」自体の場面描写が豊かになっている。「物語本文」の中に「絵解本文」に相当する描写があり、前半部では「絵解本文」の形で描写された内容が、後半部では「物語本文」に取り込まれている。これらの事実から、『うつほ物語』において「絵解本文」の果たした役割は、物語の表現における成長と成熟を促す契機となった点にあると考える。
- 長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部の論文