非機能性形質あるいは中立的形質の多様化のための生理的副作用モデル : アカタテハ属の進化史に関する考察
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概要
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チョウの翅の色模様(色彩パターン)は非常に多様である.多くの色模様あるいはそのエレメントは,交配,擬態,隠蔽などにおいて生態的,行動的な機能を持つが,それらのすべてが明確に特定できる機能を持っているわけてはないと考えられる.どのようにして,そのような機能を持たない,時には浪費にも思われるような色模様形質が進化したのか,現在のところ謎となっている.そのような過程を明確化するため,狭義のアカタテハ属の色模様進化のモデルを提案する.最初に,アカタテハ属の祖先種は温度変化の激しい高地に地理的に隔離されたと考える.このモデルでは,温度変化に反応して,分化途上の細胞を保護するために蛹は冷却ショックホルモンを分泌する.このホルモンは,副作用あるいは多機能効果として,翅の色模様を修飾する偶発的な能力を持つ.そのことにより,祖先種の表現型可塑性が表出される.しかし,修飾された表現型に適応性があることは稀である.ほとんどの場合は,交配に不都合なものにすぎないか,特に悪影響も適応性もなく中立的なだけである.しかしながら,修飾された表現型は,高ホルモン活性に対する自然選択に伴って起こる遺伝的同化の過程を通して,集団内に固定されていく.結果として,高地に棲息する現存のアカタテハ属の翅における多様な橙色領域が生じる.このように,冷却ショックホルモンは,非機能的あるいは中立的な形質の遺伝的同化の触媒者として振舞う.逆に言えば,非機能的あるいは中立的な形質は,冷却ショックホルモンなどの機能的形質に寄生するような形で集団中に広がり,固定される可能性がある.異所的種分化の古典的メカニズムが示しているように,交配における嗜好性の進化に続いて交配前隔離が確立されたのだろう.この「生理的副作用モデル」は,アカタテハ属および他のチョウにみられる非機能的あるいは中立的な翅の色模様の多様性を説明することができると思われる.
- 2008-03-30