崎山多美の「シマ籠る」における読者との舞い : 儀式を通した空間と時間の融合
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概要
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この論文を通して、「シマ籠る」を検証する。「シマ籠る」は、沖縄の離島をテーマにして作品を作り上げるという、崎山多美の作風が一番表れていると言えるだろう。またこの作風は「シマ籠る」の後の作品の基礎となっている。当論文を書くにあたり、特にテーマ、イメージ、象徴性に焦点を絞りながら、作品をじっくり読み込むというアプローチを取った。この作品で繰り返し取り上げられている主題を大まかに挙げるとすると、籠り、孤立、麻痺、暗闇、狂気、儀式、死である。これらの主題が、崎山の描写している近づきがたい環境を明確に説明することができるだろう。当論文を通して、この作品には島に対する2つの観点があることを立証する。1つは空間的観点、もう1つは時間的観点である。この2つの観点が絡み合い、舞いと儀式に基づき、新たな観点が生まれる。現代的な視点から見ると、儀式がもたらす世界に閉じこもることは、人生の移り変わりからの逃避し、引きこもっていると言える。また、読者を悩ませると同時に挑戦させる物語的技法を通して、崎山がいかにして失われたルーツを探し求めるプロセスに読者を引き込んでいくかを探る。さらに、ミルチャ・エリアーデの『永劫回帰の神話』との関連性についても考究する。この作品は、「シマ籠る」の数年後に崎山が書いた「くりかえしがえし」で重要な主題となった。「シマ籠る」と「永劫回帰の神話」との関連性について述べられた文献等があるわけではないが、「シマ籠る」においても、時間と空間の儀式的かつ「古代的」概念を描いたエリアードの記述に大きく影響されていると確信している。