中国語文法の教授におけるルール学習の問題 : 教育心理学の視点から(<特集>外国語教育を考える)
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概要
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近年来、日本における中国語学習者の増加にともなって、夥しい種類の中国語教科書が次々に現れ、初級だけでも毎年30種類以上の新刊が出るほどである。それ自体は、多様で独創的な教材選択の範囲を大きく広げ、中国語教授者にとって喜ばしい現象であることを否定するつもりはない。しかしながら、他方、「その教育内容や教育過程についてはほとんど研究が行われず、教員の資質や教科書の内容に関して現状はまさに百花繚乱であり、いわば無政府状態である」という手厳しい指摘もあり、それは当を得た鋭い批判であると言える。そうした状態の中で、教育する側にとって、中国語の授業を如何に適切かつ効果的に行うかという課題の検討がいっそう重要になってきている。教育現象を心理学的に研究することを目標とする教育心理学(educational psychology)によれば、授業は、教師の教授活動と学生の学習活動との統一的な過程である。教授活動は、学生が一定の学習活動を遂行し得ること(課題の解決)を目指して行われるが、その解決する課題の内容によって、学習活動は二つのタイプに分けられる。一つは、それぞれの「課題」と「解答」を対にして学習するという「個別的学習」タイプである。例えば、歴史年号を学習する際に、「新中国の誕生は1949年だ」という一つの「課題」を学習すると、それ一つについては「解答」することができるようになる。しかし、「では、文化大革命は何年に始まったか」という別の「課題」には全く答えることができない。もう一つは、多くの「課題」に答えるために、それらの課題を全体として支配する「ルール」を学習するという「ルール学習」タイプである。例えば、数学・物理のさまざまな「法則」・「原理」・「公式」の学習が「ルール学習」にあたる。また、外国語の文法(例えば、語序の規則・動作の時制・態の表現方法など)はルール化することができるので、「ルール学習」を行うことが可能である。「ルール学習」の教授過程は、最も基本的で単純なパターンとして、特定のルール(rule)の例示と、そのルールの活用事例(example)の例示という2つのファクターによって構成される。例えば、中国語文法の例を取り上げると、ルール:中国語の動詞は目的語の前につくルールの事例:我(僕)/〓(君)/〓(愛する)我愛〓。(僕は君を愛している)このような「中国語の動詞は目的語の前につく」という「ルール」を覚えると、たくさんの中国語文が読め、書けるようになる。つまり、「個別的学習」に比べて、「ルール学習」は記憶の負担が少なく、未知の課題の予測、或いは解答も可能になるという大きな利点がある。しかし、中国語の文法がルール化を可能にする構造を持っているからといって、中国語文法の教授が「ルール学習」で必ずしも成功するとは限らない。文法事象をどのようにルール化するか、当該ルールを学習者に理解させるために複数の事例からどの事例を選択するか、ルールと事例をどのような配列で提示するか、ルールの例外例をどう扱うか、ルールを既有知識と結びつけられるかどうかなどの問題を解明しなければ、文法規則の学習過程はさしずめ「個別的学習」にとどまってしまうだろう。ここでは、「ルール学習」という教育心理学の視点に基づいて、近年出版された中国語教科書の幾つかを参照し、中国語文法教授の現状及びその問題点を分析し、文法教授における「ルール学習」の留意点を検討したい。