ショパンとハーンの黒人乳母像
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概要
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本稿では、19世紀後半のアメリカ南部作家ケイト・ショパンとラフカディオ・バーンの、アメリカ南部またはカリブ地域の黒人乳母を扱った作品を比較し、両者の共通点と相違点を検証する。二人には母子関係、マイノリティへの関心という共通点があり、ハーンの作品がethnographyからfictionへ移行したこの時期、混血人種や黒人に対する彼の態度や描写が、当時の他のフィクション作家とどう異なっていたかを検討する上で、ほぼ同時期にニューオーリンズに在住したショパンは比較の対象としてふさわしい。ここではショパンの短編「小川の向こうに」とハーンの小説『ユーマ』に描かれる黒人乳母像を比較しながら、ethnographyからfictionへの作品の越境、旧社会体制から脱却する主人公の越境、非ステレオタイプ的「ダー」を創造した作者バーンの越境、という3つの越境の視点から『ユーマ』を考察する。「小川の向こうに」の主人公ラ・フォルは、川が象徴する白人と自己の間の見えない格差を飛び越えたのに対し、ユーマは社会的正義よりも個人的恩義を優先する姿勢から抜け出せない。しかしハーンは最後の場面でユーマをキリストにたとえ、単なる乳母の範囲を超えた崇高な役割を演じさせている。幻想的、飛躍的ではあるが、『ユーマ』はfictionへ移行する様々な工夫が見られ、フィクション作家としてのハーンの誕生を示唆していると言える。