Geoffrey Chaucer作The Canterbury Talesの'The Miller's Tale'における多義語の翻訳について
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概要
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本稿は、異言語間におけるものではなく、時代を超えた同一言語内の翻訳つまり「現代語訳」を取り上げ、そこに起こった言語現象について論じるものである。翻訳の対象となる作品は、14世紀に書かれたGeoffrey ChaucerのThe Canterbury Talesと、18世紀に書かれた3つの現代語訳(Cobb(1712)、Smith(1713)、役者不詳(1791))である。3つの現代語訳を比較する過程においては、18世紀当時の翻訳事情や翻訳者の社会的地位に関しても言及する。特に、解釈に幅があり、従って翻訳も難しくなる多義語"hende"と"sely"の2語に注目した。Chaucerの作品は、"hende"や"sely"に代表されるような多義語を、故意にさまざまな場面で用いることによって、Chaucer特有の皮肉が作品中いたるところにちりばめられている。しかし翻訳された当時、すでに2つの語はChaucerの時代と同様の意味を持たないどころか、廃語となってしまっており、単純な語の入れ替えだけでは訳し切れなかったはずである。それぞれの語は、18世紀当時のほぼ等価(equivalent)と思われる語に置き換えている翻訳がある一方、使う場面ごとに適用する訳語を変えているものもある。訳者がどちらの手法を採ったとしても、読者は作品(原典)を構成する表現や、良い意味での曖昧さを充分に味わうことができない。これは、翻訳という作業(操作)そのものによって、文学作品の持つ楽しみが減じられているということを意味する。