アルゲダスの初期短編集の人物像について : 「ワルマ・クヤイ」から「水」へ
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概要
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ホセ・マリア・アルゲダスの最初の短編集は1935年に刊行された『水』である。これには3つの短編-「ワルマ・クヤイ」「小学生たち」それに表題作の「水」-が収録されていた。「ワルマ・クヤイ」は2年前すでに雑誌に発表されていた作品で、他の2編は新作であった。いずれの短編にも、白人系の少年と先住民のインディオたち、それに横暴な農場生か登場する。そしてアンデスの農村が舞台であり、物語の構図が似通っている。つまり、農場主がその小宇宙に君臨し、インディオたちを冷酷に痛めつける。義憤にかられる少年は、インディオたちの側に立ち、農場主に対して激しく憎悪を燃やす。アルゲダス自身の少年時代の体験に基づく物語である。本論では、「ワルマ・クヤイ」の主要な登場人物-インディオ、農場主、少年-が「水」にいたるまで、どのような方法で変化・発展を遂げたのかを明らかにする。単一だったインディオ像は、複数の集団や個人を登場させることで多様性が模索され、農場主の描写もさまざまな直喩を通じてリアリティーを獲得し、少年の対立への関与も、傍観的、観念的なものから、インディオたちにより密着した直接的で具体的なものになっていくのである。この方法論の延長線上に、後年『ヤワル・フィエスタ』(1941)や『深い川』(1958)などの長編が書かれることになる。