近代日本の「実業」概念 : 報徳運動の再検討の必要性
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概要
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明治維新以後の日本の経済的発展において重要な役割を果たした「実業」の意味および役割について,「実業」概念の変遷を概観し,福澤諭吉および渋沢栄一の実業論を考察したうえで,「実業」としての農業に着目し,「実業」の地方的展開としての報徳運動の歴史的意義を再検討する。「実学」に裏づけられた「実業」という言葉が盛んに用いられた時期は日本資本主義の確立期とされる日清・日露戦間期とほぼ一致しており,この時期,福澤諭吉は現実の日本の「実業」について大いに憂慮していた。また,渋沢栄一が豪農層こそ「実業」の担い手であると明確に意識していたように「実業」には農業も含まれており,全国各地に開設された農業補習学校は地域の「実学」の発展に大きな役割を果たした。報徳運動は「実業家」を支えた思想でもあり,殖産興業政策の地方的展開または地方における民業振興という側面を有していた。