ダラムサラで構築される「チベット文化」 : チベット歌劇ラモと祭典ショトンをめぐる記述と言説の考察を通して
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概要
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本稿は、チベット歌劇ラモとその祭典ショトンが、難民社会で最重要文化として位置づけられるに至った過程を考察する。その際、パフォーマンス研究と文化の客体化論を批判的に継承し、記述者と現地の人々双方による実践を文化創造実践と見なす立場をとる。同時に、そこに生起した文化における負の側面も指摘し、それに対する語りにも注目する。難民社会においては、ラモは最重要文化であり、チベット人のアイデンティティを示すものである、と言われている。しかし、インド亡命以前、ラモはチベットの首都ラサ近郊の一舞踊であった。同様に、難民社会はショトンをラモの祭典として位置づけているが、亡命以前はこれらふたつがしっかりと接合していたわけではなかった。つまり、インドへの亡命以降、ラモとショトンの社会的な位置づけはめまぐるしく変化した、と言える。両者の位置づけの変遷過程を見るには、両者に関する研究者の記述、現地の人々の記述や社会実践に注目する必要がある。難民社会において両者の社会的位置づけが大きく変遷したのは1990年初頭であり、海外研究者の記述の変化と一致している。これらの記述と人々の語りの同調過程には、亡命時の状況やその後の社会状況が密接に関わっている。本稿は、ラモやショトンの亡命以降の変遷過程と現状を、難民社会の実践や文脈と、ラモやショトンに関する記述を分析することで明らかにする。同時に、チベット難民研究で指摘されてきた難民社会でのラサ文化の正典化と、ラサ研究への研究者の偏りに向けられた批判を接合し、記述と実践の混交の結果現れた文化が孕む負の側面を描き出し考察する。
- 2008-06-30
著者
関連論文
- 橘健一著, 『表象の民族誌-ネパール先住民チェパンのミクロ存在論』, 東京, 風響社, 2008年, 330頁, 5,000円(+税)
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