創られた「ヒンドゥー教」 : ベンガルのチャイタニヤ伝における"Hindu"の用法について
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概要
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本論文は、中世インドのバクティ運動に大きな足跡を残した聖者チャイタニヤ(一四八六-一五三三ベンガル語ではチョイトンノ)の伝記文学として史料的な評価の高い、『チョイトンノ・バゴボト』と『チョイトンノ・チョリタムリト』を取り上げ、この二つの文献に見られる土着の宗教コミュニティとしてのhinduへの言及の過程を検証する。中世のベンガル社会における、ムスリムとの交渉のもとで自覚されるhindu概念の多様な含意を検証することで、自分たちがムスリムとは異なる信仰を共有するひとつのコミュニティであるという認識が示される過程を明らかにする。特に、ムスリムの為政者が体現する行為規範を通して、インドの人びとが自らの信奉する行為規範を、ムスリムの教えに対応する、hinduにとってのhindudharmaと言及している点が指摘される。これらの事実は、今日の「ヒンドゥー教」概念の成立をヨーロッパの植民地主義との相互交渉の過程に求める既存のヒンドゥー教研究の議論に対して、インドの人びとがムスリムとの対比のもとで、自らの「宗教」への言及を行っていたことを示していることが論じられる。
- 2008-06-30
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