ブルー・パニックグラス,Blue panicgrass(Panicum antidotale RETS.)の特性と適応性
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概要
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ブルー・パニックグラスは,インド,オーストラリア,およびアフガニスタンの原産で,草姿はリード・カナリーグラスに似ている。草丈2〜3mに達し,青緑色の葉を多数つけ叢状に生育する多年生草本である。土地を選ばず,砂地から重粘土まで適応範囲が広く,重放牧に耐えて生育を続ける。アメリカには1912〜35年頃導入され,現在南西部諸州の灌漑地帯における牧草として栽培されている。今までの試験結果によれば,窒素肥料によく反応し,根は3〜4mの深さまで伸長し★★旱ばつには極めて強いといわれる。しかし,村田らの試験によれば,耐旱性はテオシントよりやや強く,数種の牧草の中では中程度であったという。WRIGHTは刈取適期は出穂期で,刈取高さは地上30cmがよく,南方型草種中最も栄養価が高く,アルファルファに匹適する成分を含むといわれ,家畜の嗜好も良好であると述べている。わが国の暖地では,オーチャードグラスやクローバ類のような北方型草種は,夏枯れをおこし,年間の飼料生産のバランスが崩れる場合が多い。このため,暖地の暑熱や乾燥に耐え,その温暖性をじゅうぶんに利用する南方型草種の導入試作が続けられている。筆者は,たまたまロックフェラー財団の援助により,1959〜60年の間米国南部諸州を視察する機会を与えられ,実際にブルー・パニックグラスの栽培状況を見聞し,その導入,試作に強い関心を持ち,これがこの試験を始める動機となった。本試験は,筆者の前任地九州農業試験場畜産部(熊本)において1961〜1963年の3カ年間実施されたものである。試験結果はおおよそ次のとおりであった。ブルー・パニックグラスは高温多照の気候を好み,霜にあうと地上部は枯死するが,-7.4℃の低温にあってもよく越冬する。熊本では3月下旬に萠芽を始めるが,晩霜により時々新芽が霜害を蒙ることがあり,実際には4月上〜中旬から伸長を開始する。真夏の高温期に最もよく繁茂し,バヒアグラスより多大の飼料を生産する。出穂期以後生育ステージが進むにつれて,急速に茎の基部が硬化する欠点はあるが,概して草質軟らかく,家畜の嗜好もすぐれている。実用的な栽培までには,刈取りの頻度や高さ,あるいは放牧など,今後いくつかの試験を必要としているが,今回の試作結果から,ブルー・パニックグラスは暖地の気候に適し,とくに南九州や四国地方の温暖地帯における採草あるいは放牧用として有望な草種の一つと考えられる。
- 1966-11-30