ハインリッヒ・ハンゼルマンにおける発達抑制理念の形成 : その歴史的意義と限界
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概要
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本研究では,ハンゼルマンの治療教育学の中核的理念である「発達抑制理念」の形成過程と特質を、その「萌芽期」と「成立・拡充期」の主要著作に拠りながら、彼の個人史及び当時の社会文化状況を踏まえつつ考察し、以下の諸点を明らかにした。(1)ハンゼルマンは、フランクフルト・アム・マイン近郊の「シュタインミューレ労働コロニー・観察施設」の教育実践(1912〜1916)により、発達抑制理念の基盤を形成した。(2)正常-異常の分類手段や断種・安楽死等の議論に対峙する中から、障害者と健常者における人間的価値の平等性の視座を獲得し、発達抑制理念を展開していった。(3)当時の時代精神の危機に対する全体性志向の諸科学を統合することにより、発達抑制理念を拡充した。しかし、その統合の基盤にあった教育学の倫理学的脆弱性ゆえに、明確な社会問題の視点から障害児教育の追求を成し得ず、「発達抑制」という限定的な発達像の提起に留まることになった。
- 日本特殊教育学会の論文
- 1990-03-10