ネパール,ビャンスにおける民族諸範躊とその用法
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概要
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本論文は,極西部ネパールのビャンスにおいて通用している幾つかの民族範疇の指示範囲と含意を,それに付随する定型的な語りとともに検討するものである。この作業の目的は,名称と対象の関係の理解において学者の間で混乱の見られたこの地域の民族名称を整理するとともに,民族の問題の本質を「名」に求める最近の議論の有効性を事例に即して確認し,併せて幾つかの論点を指摘することにある。具体的には,彼らの母語による自称とそれにまつわる語りの検討から,彼らの自称Rangの内実が,いわば一つのトートロジックな定言命法であることが示される。さらに彼らが,多言語状況下において,民族範疇が過剰に規定されている状況を逆用して様々な民族範疇を機会的に利用し,「宗教」「人種」といった外来の概念をも取り込みつつ自らの民族について語っているという状況が,そうした営為がもたらす固有の困難さとともに記述分析される。
- 日本文化人類学会の論文
- 1997-03-30