日系建設会社のグローバル戦略 : リスクマネジメントから見た事例研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
建設市場はこれまで公共・民間投資の影響を受けて好況・不況を繰り返してきたが、国内の受注環境が冷え込むと、大手建設会社(ゼネコン)は、発展途上国を中心とした海外市場へ活路を見出してきた。1980年代頃までに行われた海外工事は、発展途上国における政府開発援助(ODA)や日系企業の海外投資に伴う工場や施設の建設が主である。しかし、日系顧客からの工事は発注時期や地域にバラツキがあり、1990年以降ゼネコンは、日系以外の顧客への営業活動を活発に行なうようになり、東南アジアや欧米諸国において現地系企業からのローカル案件を受注するようになってきた。海外工事では国内での請負工事に比して数倍のリスクがあると言われているが、ローカル案件でのリスク要因はさらに複雑となる。契約社会に対応した準備や対策が十分に行われなかった結果、日系建設会社はローカルの発注者、コンサルタント、下請業者等から板ばさみの状態となり、厳格な契約条件とクレームの応酬合戦により、多大な罰金や損失を被るケースも増えている。海外プロジェクトで生じた様々な問題について、顕在化したクレーム事例等に関する報告はあるが、海外工事においてプロジェクトの入手から実施に至るまでの諸問題を、事業者の立場から経営的視点で捉えた報告事例はほとんどない。本稿は、先進国におけるローカル・プロジェクトでリスクが顕在した問題事例を3件紹介する。異なる要因による複数のリスクが複雑に絡み合い、設計・工事の工程遅延や品質問題に発展し、損失拡大に至ったプロセスを分析し、個々の問題がどのように絡み合い、大きな問題へと拡大していったのか、その原因究明と再発防止への対応策を検討する。日本の建設業は、欧米諸国の建設会社と同様に、今後は建設需要の豊富な海外市場を目指し、海外工事の比率を徐々に増やしていくものと推察される。日系建設会社がグローバル市場において安定的な利益を確保していく為には、経営的要素を組み入れた総合的リスクマネジメントの導入が不可欠であり、グローバル戦略への対応策として5つの提案を行なう。
- 国際ビジネス研究学会の論文
- 2007-09-30