現代型訴訟における「一応の推定」の機能について
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概要
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日本の判例において、「一応の推定」という文言が用いられることがある。一応の推定とは、高度な蓋然性をもつ経験則のはたらきによって、過失や因果関係を推認することであるといわれる。この一応の推定の理論は、判例上は他人所有の山林での立木の伐採、保全処分の不当執行、医療過誤訴訟といった事例で用いられてきた。また、学説においては、一応の推定はいかなる機能をもつものか(事実上の推定か、証明責任の転換か、証明度軽減か)という問題について議論されてきた。そして、いわゆる現代型訴訟の増加に伴い、証明責任を負う当事者の立証困難を軽減するための理論としても注目されるようになった。特に医療過誤訴訟における一応の推定の有効性については、多くの論稿で論じられている。 しかしながら、総論として現代型訴訟において有効性を発揮すると指摘されながら、各論としては医療過誤訴訟以外の現代型訴訟への応用についてほとんど議論されていない。一応の推定が、証明責任を負う当事者の立証困難を軽減するという性質をもつものである以上、構造的に証拠が偏在する現代型訴訟において、医療過誤訴訟以外にも一応の推定が適用されるべき事例があるはずである。そこで本稿では、一応の推定の適用範囲の拡張の問題を中心に扱い、現代型訴訟(特に公害訴訟、環境訴訟、薬害訴訟)において一応の推定の果たす役割について考察する。
- 同志社大学の論文