「ボトム」に生きたアメリカ黒人の死生観 : トニ・モリスン作『スーラ』(保田正毅教授・菅野正彦教授退職記念号)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
トニ・モリスンの二作目の小説,『スーラ』(1973)論である。まず,小説の舞台である黒人近隣社会「ボトム」の重要性に着目し,その黒人の生活の場所としての特徴を示した。次いで,この場所に黒人女性として生まれた社会的な制約を自覚しつつ,母たちとは異なる生き方を意志的に追求したスーラとネルについて,それぞれの自己形成の過程と行方を分析,検討し,二人の友情の継続も,個性的な生の実現も,白人の経済的文化的な支配の故に十全ではなったことを明らかにした。さらに「ボトム」の人々のものの見方や考え方を作品の記述から抽出し,ここに白人文化に対応しこれを凌駕する新しい可能性が存在することを指摘した。