咀嚼時における顎筋の活動様式に関する研究
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概要
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咀嚼器の駆動系は,その筋数が運動自由度を上回り,冗長である。一方,咀嚼中のウサギ顎筋の筋活動積分値の周期間変動が主成分分析により少数の変動の重畳として記述できるとの知見が報じられ,咀嚼制御の自由度が駆動系の自由度を大きく下回る可能性が推察されている。しかしこの研究は筋活動の時系列変動を捉えていない。そこで本研究では,ヒト咀嚼時の顎筋活動パタンの時系列変動を主成分分析にて解析し,同様に少数の変動の重畳と捉えられるか否かを検討した。正常有歯顎成人男性8名より各200周期の右側片側ガム咀嚼時の切歯点運動経路ならびに両側咬筋,側頭筋,顎二腹筋前腹の表面筋電図を記録した。経路に基づいて区分した各咀閣周期の開口,閉口,咬合の3相を,それぞれ所要時間により5等分し,計16の時点を設定した。全波整流後,包絡線処理を施した筋電図から各時点の値を求め,各周期の筋活動パタンを96変数のデータ列にて記述した。各被験者200周期の筋活動パタンの変動を分散共分散分析に基づく主成分分析に付した。その結果,累積寄与率70%に達するのに必要な主成分数は3〜11(平均6.3)個であった。各主成分は複数の筋の特定の位相における活動の変動に関与し,群の組み合わせは多様であった。一方,主成分はおそらく非線形性などに起因するであろう冗長性を孕み,したがってその数は本来の制御要素数よりも多数である可能性が推察された。