性とセクシュアリティ表象について: 母への鎮魂
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概要
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本論は日本と韓国映画を文化交差的に分析し、ジェンダー表象の特徴の共通点と差異を見出そうとするものである。日韓映画の比較は、その緊密な歴史的関係ゆえに非常に意味深い。特に、儒教的な文化伝統、外圧による急速な西洋化、国家主導の近代化などの共通点が、これらの映画言説がおかれるコンテクストを共に構成している。本論が扱う四本の映画は、伝統的な共同体中心の人間関係と、「西洋的」な理想とのはざまで、矛盾を抱え、おかしな行動に走る普通の人々を描いたナンセンスコメディー、伊丹十三の『お葬式』(1984 年)と『タンポポ』(1986 年)、パク・チョルスの『Farewell, My Darling』と『301,302』である。この四作品に見える日韓社会のアイデンティティーの危機について扱いながら、これらの映画で男性の視点から表象される、女性のセクシュアリティと役割の対立に焦点を当てる。日韓の映画の伝統に展開される家族ドラマを、クリエイティブに実験的に表現した伊丹とパクは、共に食べ物を象徴的に用い、また男女間の空間的分断を強調する。描かれる女性像の多様性は、家父長制が伝統と近代社会の理想の間に揺れ動き、求めるものも相互矛盾を引き起こしていることを示している。特に食物とセクシュアリティ規範を組み合わせたモチーフは、ポストコロニアル時代の人々の経験の特異性と、変化に対応しようともがく姿を表現するために用いられている。