日本企業の新中国事業戦略と経営現地化 : アンケート調査分析(浦野晴夫先生退職記念号)
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概要
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日本企業の中国市場販売重視の姿勢は、本アンケート調査結果に極めて顕著に出ている。これとの関連で本社によっては、中国子会社経営に対して「ヒトの現地化」を中心とする経営現地化政策導入が、過去・現在・将来という時系列的に徐々に進められると回答された。中国子会社への本社コントロールも徐々に弱められるとされている。他方、この本社戦略を担う中国子会社では、中国での企業間競争激化の中で、経営現地化志向はさらに高いことが回答から析出された。製品開発から販売にいたる最高責任者に、中国人社員登用計画の肯定回答比率は本社より高い。また、企業間激戦の続く上海・江蘇省において、とくに技術者・管理職者の優秀な人材確保・定着が困難な状況下で、多くの日系企業が賃金改革に取り組んでいることもわかった。改革方向は、中国の実情に合わせた実力主義賃金の導入である。また、企業間競争激化と中国内販拡大に備えて、新規技術移転はさらに続き、そのための派遣社員数は当面減らないとされた。通訳を通じたコミュニケーションの不十分さが回答され、仕事外での中国人社員との付き合いも限られ、中国人社員との信頼関係樹立という点での問題も見えた。中国内販重視との関連で経営現地化に積極的姿勢の見られる回答にも拘わらず、総経理を昇進の上限と回答した現地企業は少なかった。本社回答の総経理「登用計画」への多数の肯定回答とずれがあった。本アンケートへの回答は、主に、中国事業に対して積極的姿勢で臨みかつ比較的業績順調な企業から寄せられていると、推測できる。そのような企業は、中国での経営現地化に対しても多かれ少なかれ積極的に取り組んでいると考えられる。したがって、本回答結果は、中国進出企業の全体像というより、このような積極的対中国事業姿勢をもった企業の特徴を表しているというべきであろう。2003年3月、筆者は上海を中心に第7次訪中日系企業調査を実施したが、「ヒトの現地化」は、実際には進行度合いは遅く、とくに総経理への中国人登用は遅々として進んでいないことが確認された。カネボウの中国子会社22社の立ち上げに全て関わり、中国事業30年余の経験を持つ古林恒夫氏(現在、上海華鐘コンサルタントサービス有限公司総経理)は、筆者との2度目のインタビューで、「中国市場での販売拡大は、中国人総経理でなければだめです」と断言された。中国国内市場販売拡大の至上命題は、今や、日本企業あるいは日本人が長年の間に身に付けてきた体質・文化の堅い壁の打破を迫るものとなっている。
著者
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