給与所得税累進度の解剖(小樽商科大学創立75周年記念号)
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概要
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本?稿は『民間給与の実態』をデータとして観測された給与所得者の所得税累進度を,クロスセクションの対数線型の加重回帰による弾力性と,ジニ係数の変化率による実効累進度の2通りのメジャーによって,最近の15年間について計測した。その際,原系列から乙欄適用者の人員について2重計算を除去した。所得税負担は総収入Wとその分布R,所得控除E_h,および税率関数t_s(Y_t)によって決まるが,E_hの引上げによる効果はいずれのメジャーによっても,全体として効果はあるものの,安定した効力を示すにいたらなかった。一方,税率関数の働きは,所得分布が上方にシフトすると弾力性の上昇という働きによって,分配の事後的修正を行うことがある。全期間についてとはいえないが,E_hとt_s(Y_t)が不変であった期間のうち,53年から59年までは,分布の不平等化と累進度の上昇ならびに実効累進度でみた分配修正効果の上昇が観測された。このうち59年にはE_hの引上げと,税率表の改訂が行われたが,53年いらいの2つ累進度の傾向から大きく外れることはなかった。租税関数の原点の位置と曲率は所得と租税,あるいは税引所得と労働供給の選択にあたって重要な働きをもつ。所得水準の上昇と,労働市場への女性参加率上昇は,限界税率の大きさによって,付加的所得かレジャーかの選択に影響をもつようになろう。このような観点からもE_hのあり方やt_s(Y_t)の形態は,租税政策の重要課題であり,ともすれば模索的な試行であったようにみえる減税政策も-租税当局者は納税人員,税負担の分布,徴税費用そして他の所得との公平な処理等を顧慮しているであろうが-コンシステントな政策根拠をもつ必要があろう。本稿はこの方向への一つの論考であると考えている。
著者
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