行政とNPOの協働に関する理論
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概要
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本稿は、主として福祉分野を対象に、近年注目されている民間の非営利組織、いわゆるNPOと行政の役割、あるいは、NPOと行政の関係に関する理論について検討することを目的としている。具体的には、福祉サービスの分野でNPOと行政がどのようにそれぞれの長所をできる限り発揮しそれぞれの弱いところをカバーしていくか、そのためにNPOと行政はどのように振舞えばよいかということについて政治学・経済学・経営学・組織論・心理学等の理論を参照しつつ論じることとする。なお、ここで対象とするNPOとは、Nonprofit Organizationの略であるため経済的な利益の追求を第一の目的としない組織と広くとって、日本でできたいわゆるNPO法によって認められた団体(特定非営利活動法人)だけでなく法人格はなくとも一定程度組織化されていて、メンバーによるボランタリーな(自発的な)参加(ボランティア、寄付)があり、自主的に管理されており、金銭以外の目的を第一の目的として活動する民間の団体ということにしたい。NPOが活動しうる問題の範囲としては福祉以外にも教育、まちづくり、文化、環境、安全、人権・平和、国際協力などがあり、こういった目標を第一に掲げて活動する組織もNPOに入るが、ここでは福祉に関するNPOを主な対象とすることにする。近年高齢社会の到来や財政難といった状況などによってNPOの役割が注目されるようになっているが、NPOに行政が担ってきた役割、あるいは行政が果たすべき責任を肩代わりさせようという観点からNPOを盛んに奨励しようとしているのであればそれは問題であるといえよう。したがって、近年行政サービスの民営化・民間委託などが盛んに議論されているが、NPOの活動範囲が広がったからといってその分行政の役割や関与が減少する、あるいは減少させてもよいと考えるのは適当ではない。むしろ行政は、さまざまなところでこれまで以上に大きく関わってくる可能性もある。社会福祉の領域で近年盛んになっている福祉多元主義の議論は、もはや社会福祉は国家のみによって担われるべきでなく、そこに多様な供給主体の存在が認められるべきであるということを示したが、単純に国家の役割を否定するのではなく、国家は他の部門との関係の中で多様な役割を果たしうることを示唆している。社会福祉においては、さまざまな主体を含めて総体としてどのようにニーズを満たすかという視点から捉えることが共通認識となりつつあるのである。これから論じるように、行政とNPOにはそれぞれに固有の強みと弱みがあるのであり、どちらか一方が相手に完全にとってかわることは不可能である。そのため行政とNPO、それぞれの役割をゼロサムの関係、つまり一方の役割が大きくなればもう一方の役割は小さくなるといった縄張りを取り合う関係のように考えるのではなく、行政とNPO両者の強さと弱さを見て相互補完させることが必要なのである。そこで本稿では、行政とNPOが福祉サービスの提供においてそれぞれどのような強さと弱さをもっており、それをどうやって補い合わせていくべきかを検討したい。