「多元主義神学」再考-ヒックとサマルサの言説を機縁にして
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概要
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宗教的多元主義は、さまざまな宗教的実践や理論的、神学的課題を提起してきた。ジョン・ヒックの「多元主義仮説」は、社会的、政治的実践にもかかわるような仕方で、諸宗教者の倫理行為喚起を提唱する。この仮説によれば、すべての宗教は「ザ・リアル」と仮称される究極的実在に対する応答であり、諸宗教伝統間の差異は、文化的相違に基づくものである。「対話の神学」を実践したスタンレー・サマルサは、最終的には聖霊の働きに着目し、それはユダヤ・キリスト教伝統の占有物ではなく、あらゆる宗教伝統内に働くものとして捉え、彼の多元主義神学の着地点とする。諸宗教伝統が一元的に収斂されるところに、彼らの多元主義神学の特徴が見られる。このような形式による理論の、現実への適応は困難であろうが、諸宗教伝統間の相違を旗印とした宗教間の対立を避けるため、対話による学びと相互理解の重要性は看過できない。ただし、それは自宗教の自己再検証と吟味にも繫がることによって、初めて意味をもつのではないか。とりわけ、宗教内の一部が孕む暴力性が問題となるとき、「自宗教内対話」の重要性に眼を向けねばならないだろう。それは多元主義神学にとって緊急の課題ではないだろうか。
- 同志社大学の論文