日本工場法成立期における福利厚生
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概要
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本研究は、日本における福利厚生の形成過程に関する歴史研究であり、工場法制定が議論されつつあった明治30年代を取り扱う。特に福沢諭吉の福利厚生観と彼の門下生である荘田平五郎が同時期の他社に先駆けて三菱長崎造船所で形成した福利厚生制度に焦点をあてる(はじめに)。まず、先行研究を整理し研究方法を述べる(第II章)。次に、福沢諭吉の福利厚生観を検討し、労使調和を目指す温情主義的な発想の基底には、合理主義的な考え方が存在することを指摘した(第III章)。さらに、職工救護法に代表される長崎造船所の福利厚生制度についての事実を整理し、それらが前近代的な慣行を踏襲するものではなく、近代的な人事管理の一環として新たに導入されたものであることを明らかにした(第IV章)。以上の検討を踏まえて、福利厚生の目的として、単なる従業員の定着ではなく、労働力の保全と生産効率を重要視していたこと、その基本的な考え方は、温情主義だけでなく合理主義に基づいて行われており、それが福沢から荘田らの門下生に伝承された基本的な考え方であることを考察した(第V章)。これまでの先行研究が日本の福利厚生について、大正期以降に確立された終身雇用慣行と関連づける見方が強かったのに対して、雇用流動的な状況下にも通じる合理的な行動でありうることを示唆した(むすびにかえて)。
- 東北文化学園大学の論文