シティズンシップとしての福祉
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概要
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福祉の基本理念には、人間の尊厳としての人権が存する。人権としての福祉、すなわち福祉の諸権利を考えるに際して、T.H.マーシャルが提唱したシティズンシップに基づく社会的権利としての福祉という視点が欠かせない。シティズンシップとは市民としての資格を意味し、その資格に基づいて市民としての諸権利が付与される。そのなかでも生存権などの社会的権利が重要であり、今日の福祉国家の理論的基礎ともなっている。現在、シティズンシップについて多くの議論がされているが、わが国の議論ではその前提としての市民、市民社会、国家との関連が必ずしも明確ではない。近代社会の生成の過程で、その担い手としての個人が生まれ、市民社会と国家を形成し今日にいたる歴史過程は、人々の人権と具体的な諸権利、および福祉諸制度の獲得をめぐる、市民社会を媒介とした個人と国家との対抗の歴史でもあった。その意味で特殊欧米的な過程であった。わが国は遅れて近代化の道を歩み今日にいたり、なお多くの伝統的なものを残し、近代的な個人や市民社会の不在あるいは未成熟が指摘されている。したがってシティズンシップとしての福祉という面もきわめて脆弱である。今日、ネオ・リベラリズムの潮流は権利主体としての個人と権利保障の主体としての国家の双方を弱体化させてきている。シティズンシップの視点からすべての人々の自由で平等な参加を目指す福祉の実現のために、広範な人々の連帯による市民社会の構築が求められている。
- 東北文化学園大学の論文