神経因性疼痛モデルラットではケタミンによる脊髄後角痛覚伝達抑制作用が増強する
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概要
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ketamineは健常人に投与してもほとんど抗侵害作用をもたない量で一部の難治性神経因性疼痛を著明に改善することがある.しかし,その詳細な機序は明らかではない.脊髄後角は末梢組織から入力された侵害情報を修飾して上位中枢へと伝達する重要な部位である.神経因性疼痛状態の発生機序の一部は脊髄における解剖学的・機能的な可塑性変化であること,脊髄への局所投与によっても神経因性疼痛の軽減が得られることなどから,神経因性疼痛患者においてはketamineの脊髄後角細胞に対する作用にも何らかの変化が生じていることが推測される.そこで坐骨神経部分損傷(spared nerve injury ; SNI)モデルラットの脊髄スライス標本を用いて電気生理学実験を行い,脊髄後角細胞の痛覚伝達に対するketamineの作用を正常動物と比較した.【方法】6週齢の正常ラットおよびSNIモデルラットよりウレタン麻酔下に腰仙部脊髄を取り出し,後根付き横断スライス標本を作製した.脊髄後角第II層(膠様質)よりblind法によるpatch-clamp記録を行い,後根刺激で誘起される興奮性シナプス後電流(excitatory postsy-naptic current ; EPSC)の,ketamine 50μMおよび競合性N-metyl-D-aspartate (NMDA)受容体拮抗薬APV (DL-2-amino-5-phosphonovaleric acid) 50μM灌流投与前後での最大振幅,EPSC波形と基線で囲まれる面積について検討した.【結果】SNIラットではほとんどの記録細胞(93%:29/31)でAδ線維誘起の多シナプス性応答を示したため,本研究では正常ラット(n=24)及びSNIラット(n=29)の後角細胞から記録されたAδ線維誘起多シナプス性EPSCのみに対するketamineおよびAPVの影響を調べた.ketamineおよびAPVの灌流投与により,正常ラット群のEPSC波形は振幅(p<0.05),面積(P<0.01)ともに有意に減少した.SNIラット群のEPSC波形も振幅,面積とも有意に減少した(p<0.01).抑制率はSNIラット群が正常ラット群に比べて有意に高かった.【考察】50μMというNMDA受容体以外にはほとんど作用がないとされる濃度のketamineにより,Aδ線維誘起の多シナプス性EPSCの抑制が認められ,さらに,APVでも同様にAδ線維誘起の多シナプス性EPSCの抑制が認められた.EPSCの抑制は正常ラットよりもSNIラットにおいて強く認められ,SNIラット脊髄後角では痛覚情報伝達にNMDA受容体がより大きく関与するようになることが示された.NMDA成分が増大する機序として,神経損傷によるgamma-aminobutyric acid (GABA)抑制系の減弱(脱抑制),解剖学的構築の変化による多シナプス性の応答の増加,NMDA受容体サブタイプ発現の変調が考えられる.
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