量子力学における観測問題の現状(修士論文(1991年度))
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概要
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量子力学はその多方面への応用における成功にも拘らず、その原理的側面としての観測問題は現在にいたるまで、未解決な部分として残っている。今までに数多くの観測理論が発表されているが、そのどれもがコンセンサスを得られているとは思えない。本論文第二章では、現在までに行われた実験、特に隠れた変数の存在を否定したアスペ達(1982)によるベルの不等式の検証実験について述べ、測定に伴う偶然性は自然が本来持っている本質的偶然性であることを示す。そのため観測過程は個別系でなく統計集団(statistical ensemble)について考察せざるを得ないのである(統計的解釈statistical interpretation)。観測理論には、量子力学の一般定理と相入れないものや、量子力学以外の考えを導入するものがあるが、それ以前に量子力学の枠内で測定過程をどこまで記述できるのかを検討することが先決である。本論文第三章では、部分系としての測定対象系・測定装置系・観測者系の密度行列の時間変化を調べることにより、測定が対象系と装置系の相互作用後に終了することを示した最近の理論を紹介する。これに基づいて行ったオリジナルな研究を第四章で述べる。二重スリットによる干渉縞に対する経路観測の影響を、検出器の反応によって分離することの出来る3つの部分集団のそれぞれについて調べ、結果を物理的に考察した。また、ニールスボーアの粒子像と波動像の相補性を定量化して示すことに成功した。最後に、この思考実験は現実の実験で検証可能であることを強調したい。
- 1992-07-20