経営者の社会的責任 : 利潤の公有視と資本の公有視
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概要
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本稿では、近年の経営者の社会的責任論(CSR: Corporate Social Responsibility)の根源には、株式会社の資本や利益の所有についての考えの変化があるのではないかと考え、そのような仮設を理論的に検証することを目的としている。このために筆者は、初めに、企業資産(生産手段)あるいは資金(資本)の所有について論じた古典であるマルクスの「資本論」によって、資本主義の本質を考える。次いでそのような本源的な資本主義がどのように変貌してきたかを、やはりM.ドッブの古典「資本主義 : 昨日と今日」を中心にして検討した。さらに、近年のわが国の株式会社の所有構造も見て、ドッブの見解をも批評し、マルクスの利潤観も批評した。他方で、日本型経営にベースである従業員重視の考え方や「企業ブランド」ないし「のれん」が従業員の創造物だという考えは、労働価値説とも相通ずることを明らかにした。その上で、経営者の社会的責任を社会的費用の負担に関して論じた古典書、カップの「私的企業の社会的費用」他によりながら、今日の経営者の社会的責任論の拠って立つ企業観,つまり「社会の公器」としての企業観について考察を導いた。このようなプロセスを通じて、今日の企業の社会的責任論が、「利潤の公有視」と「資本の公有視」という社会的な認識のもとに成立することを理論的に検証した。