フランス生命倫理法に見られる人格概念
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概要
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フランスの生命倫理法には、「法律は人間の優位性を確保する」とあるが、「人間」及び「優位性」という言葉の多義性ゆえに、この原則を現実に適用する際、矛盾した態度が生じざるをえない。この条文に関わる問題を注意深く検討することにより、「人間の優位性」に関して、次の3つの側面を区別しなければならないことが明らかとなる。すなわち、1.生物学的次元:他の動物種に対する種としての人間の優位性。2.法的次元:生物学的人間に対する法人格の主体としての人間の優位性。3.社会的次元:社会全般の利益に対する個人の尊厳の優位性。だが、実生活においてこれら3つの次元の間に緊張関係が生じた場合には、ある利益を確保し他の利益を犠牲にするよりほかない。フランスの生命倫理法は、実際のところ、「人間」という概念に孕まれているこれら3つの側面の持つ諸価値の間で、いかに調整し均衡を見出すかという点にかかっている。結局、生命倫理法は、原則としては人の胚や胎児を尊重するものの、他の諸価値との均衡を図ることによって、一定の場合に、人の胚や胎児の生命を終わらせる可能性をも容認する。換言すれば、人の胚や胎児の生命の尊重に程度を許容する。生命倫理法に見られるのは、こうした柔軟な人格概念なのである。
- 日本生命倫理学会の論文
- 2004-09-17