新しい優生学と個人の自由の制限 : 遺伝子、胎児の資産分析の試み
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概要
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出生前診断を受けるかどうかの選択は完全に個人の自由に委ねられるべきなのか。自由放任は結果としてある属性の胎児、胚の排除を招きかねないため、この問いは新しい優生学の主要な倫理問題となっている。本稿は、遺伝子、胎児を経済的な価値を持つ資産とみなす仮説を前提に、経済学的なアプローチを試みることにより、この問題を医療、福祉資源の配分問題として捉えなおす。そうすることで、選択的中絶に踏み切る親と現存する障害者の間には、経済的な利益のトレードオフが生じることが明らかになり、新しい優生学が障害者差別に当たらないとするダブルスタンダードの矛盾点も浮き彫りになる。遺伝子の価値形成に大きな影響を与える市場は、特殊な構造をしているために不安定な変動に見舞われやすく、また情報の非対称、不確実性などによって市場の失敗を招きやすい性質がある。さらに準公共財としての医療、福祉の供給にも悪影響を与えることから、出生前診断への課税という具体的な規制案を提示する。
- 2004-09-17