ヒトES細胞研究における生命倫理 : 我々は何を審議してきたか(第15回日本生命倫理学会年次大会シンポジウム)
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概要
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ES細胞とは生体を構成するあらゆる組織・器官に分化する能力を持つ細胞のことであり、アメリカ、ウィスコンシン大学のJ.A.トムソンらは、1998年11月、ヒト胚から初めてES細胞を樹立した。ES細胞は新規の医療に結びつくものとして大いに期待される反面、不妊治療のために作られ凍結保存されているヒト受精胚(余剰胚)から採取されるため、生命の源を壊すという倫理問題が存在する。この問題の本質は、ヒト胚の潜在性をどのように捉えるかであろう。反対する人は、ヒト胚はまだ人間の状態ではなくても、人となる潜在性を持っており、それを遂行する権利があると主張する。しかしながら人になる潜在性とは、ヒト胚が人にまで成長することを、賦与するものではないと考える。文部科学省では、現在、特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会において、各研究機関から提出された樹立計画及び使用計画を審査している。私もその一委員として関わっており、審査で問題になった点等も考察した。さらにヒトES細胞研究では、文化的・宗教的な背景が大きく影響してくる。日本では、ヒト胚を壊してES細胞を樹立するという問題に、国民からのそれほど強い反対はない。反面、生命最後の部分では拘っており、国民的総意として心臓死しか受け入れられない。これが脳死問題である。日本は文化的にも、脳死体からの臓器、組織提供の医療ではなく、移植用材料を作り出すES研究に向かわざるを得ないのではないか。
- 2004-09-17