C_<60>薄膜及び単結晶の光学スペクトル
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概要
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C_<60>の固体状態では分子同士はvan der Waals力で弱く相互作用していて、光学スペクトルには主に分子としての特徴が現れる。その一方で、薄膜の吸収スペクトルには溶液では現れない吸収帯が現れ、電荷移動型励起子による吸収と解釈されている。また、薄膜、単結晶では光伝導や光誘起重合が起こることも知られ、凝縮系としての性質が確かに現れている。単結晶について発光過程の研究が盛んに行われているが、試料依存性が強いため、その発光始状態や緩和機構については未だ解明されていない。本研究ではC_<60>薄膜と粉末から気相成長させた単結晶を用いて、4K〜300Kの温度範囲で光学スペクトル測定を行った。薄膜の光吸収の吸収端構造から最低一重項励起子エネルギーを1.84eVと見積もった。単結晶において2.41eV光によるバンド間励起では、4.5Kにおいて2種類の発光帯が共存しているのを観測した。すなわち、20K以下の低温でのみ現れる発光帯(TypeBと呼ぶ)と、20K以上で残る発光帯(TypeAと呼ぶ)である。1.69eV光によるギャップ内共鳴励起においてはTypeAに分類される発光のみが観測され、この発光はバンドギャップ内の局在準位に起因することがわかった。励起閾値が異なる2つの発光帯が低温で現れることは、D. J. van den Heuvel^<(26)>らが報告している1.2Kでの結果と一致している。彼らはTypeB発光の励起の閾値が1.81eVにあることを励起スペクトル測定から確かめている。TypeB発光は励起閾値が吸収端とほぼ一致し、スペクトル形状が溶液の発光と類似していることから、孤立分子の性質を反映したフレンケル励起子に起因するものと考えられる。TypeA発光は、十分低温での結晶内に生じた何らかの格子不整や欠陥によりバンドギャップ内に生じた局在準位に起因するものと考えられる。C_<60>単結晶の発光スペクトルは試料依存性や経時変化があり複雑であるが、本論文では発光スペクトルの温度依存性、励起エネルギー依存性、試料依存性、経時変化に着目し、既に報告されている結果とも照らし合わせ、主にTypeA、TypeB発光帯の発光始状態について考察をする。
- 物性研究刊行会の論文
- 1996-10-20