亜硝酸アミル負荷法による虚血性心疾患の左心機能評価 : 実験的および臨床的検討
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概要
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亜硝酸アルミamyl nitrite(AN)負荷は,動脈の拡張による急激な後負荷の減少と,それに誘導される頻拍と心筋収縮力の増大をもたらす。動物実験の結果,AN負荷により大動脈圧は著明に低下し,それとほぼ時期を同じくして心拍出量は増加した。また,冠循環に関しては,AN負荷により健常な冠動脈の血流は著しく増加したが,高度に冠動脈を狭窄した場合,狭窄末梢の血流はむしろ減少し,冠血流の再配分に異常を生じることが示唆された。すなわち,健常心では,十分な冠予備能と心筋収縮力をもってAN負荷に対応することができ,心機能の著しい向上をみる。しかし,虚血心では,血圧低下による冠灌流圧の減少,拡張期の短縮に加え,冠血流の再配分に異常を来たすことなどの冠循環に対するnegative factor,および虚血心筋の収縮性低下により,AN負荷はcoronary stressとして有意な意義を持つものと考えられる。このようなことを基礎に,AN負荷法により,虚血性心疾患の左心機能の予備力について検討した。対象は虚血性心疾患患者110例で,対照群は健常者32例である。左心機能評価は主としてsystolic time intervals(STI),心超音波法などの非観血的手法によって行い,対象のうち55例に施行したleft ventriculography(LVG)所見と対比した。その結果,虚血群では,AN負荷後のejection time (ET)/preejection period(PEP), posterior wall excursion (PWE), mean posterior wall velocity(mPWV), mean velocity of circumferential fiber shortening(mVcf)の増加率が健常群よりも有意に低く,また,left venticular diastolic dimension(LVDd)の減少率も有意に低く,安静時にはmaskされていた虚血心の左心機能の予備力の障害がAN負荷により明瞭になった。とくに,ET/PEPの変動は観血法より判定した疾患重症度にもよく相関し,総合的な左心機能の指標として最も信頼のおけるものであった。以上,本法は,安静時には判然としない虚血心の左心機能障害を検出する,臨床的に実施が容易な有用な方法であることを示した。