適応する記号力学系と知能について : 自律ロボットによる行動学習の実験(ポスター発表,基研長期研究会「複雑系」,研究会報告)
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概要
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本文では、知性とはカオスを含む複雑系の為す技であるといった解釈を、現実のロボットによる実験をふまえながら示す。ロボットは、物理的世界に対してモータコマンドを発生し、それに対するセンサー情報を受け、その結果としてまたモータコマンドを出すといった、一つのダイナミカルループを形成する。したがって、ロボットの挙動はこの内部と環境の力学系の結合により決定されることになる。この時、ロボットの知性のレベルは、この全体の力学系が複雑さのどの階層に位置されるかによって、分類可能と考えられる。さて、ロボットが行動を通して何らかの知識を学習していく過程は、その内部力学系を変えていく過程に他ならない。一般的に、学習によって得られた知識の表現及びその活用には二通りあると思われる。一つは、「スキル学習」といわれるもので、それはルックアップテーブルを用意し、経験して得られた内部状態と取るべき行動のマップを、そこに埋めていくことに等しい。ロボットはこのテーブルから、各時点での内部状態に対応する行動を決定していき、達成すべきゴール状態へと進んでいく。この方法では、達成すべきゴール状態を任意に変えることはできない。つまり、一つの目的のスキルを学習した場合、それを他の目的に連用することは基本的にはできない。もう一つの方法は「モデル学習」、つまり行動に基づくところの、ロボットと環境の因果関係モデルを獲得していくといったものである。モデルの記述は、状態x×行動y→状態zといった文法規則集合的な構造を持ちうり、ロボットはそれらの組み合わ操作をすることにより、任意のゴール状態への行動プランを立案することができる。筆者は、知性とは、モデルを用い多様な問題にアプローチできるメカニズムを指し示すと考え、本文ではモデルの獲得、モデルに基づくプランの立案といった計算過程を、いかに力学系の枠組の上で実現していくか説明する。そして、知性の本質ともいえる、Deliberativeな計算過程はガオス力学系の時間発展に対応することを示す。詳細な説明に入る前に、最後に力学系に基づく筆者のアプローチと伝統的AIに基づくそれの違いを説明する。AI的手法は、基本的には、記号的知識の表現とそれの操作の上に成り立っていると言えよう。カオス力学系においても、記号力学系の理論が示す通りに、同様の記号操作の過程を考えることができる。但し、AI的手法では記号表現はプログラマーが与えるが、筆者の主張する方法では、記号自身が内部力学系の環境との物理的干渉の過程に自己組織化されるという大きな違いがある。筆者のロボットは、それ自身の行動に基づくより直接的な記号的表現および操作を自ら作り出すといえる。いかに世界を、操作可能なアブストラクトなかたちで、しかも現実との致命的なギャップを作り出さずに、表現していくかは長年の問題であるが、筆者の主張する力学系に基づく方法論は、それに対して、ひとつの方向を与えるものである。
- 物性研究刊行会の論文
- 1995-03-20
著者
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