発達期歯牙喪失によるラット大脳皮質口腔感覚野への影響
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概要
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顎口腔から多くの情報が脳に送られているため、発達期の口腔機能低下は脳の発育に影響を及ぼす可能性がある。口腔は硬さ・温度などの体性感覚と味覚という化学感覚を感受する場所である。そこで大脳皮質口腔体性感覚野と味覚野に注目し,局所神経回路の機能発達に対する歯牙喪失の影響を調べた。生後2週から3週の期間にラットの上下顎切歯および上顎臼歯を抜歯し,流動食にて飼育した群を歯牙喪失群,非抜歯にて正常飼育した群を対照群とした。それぞれの群より口腔体性感覚野および味覚野を含む脳スライス標本を作製し,カフェインを含む細胞外液中で低頻度電気刺激を行った。これにより引き起こされるニューロン活動を電気生理学的計測法および光学的計測法を用いて記録した。生後約3週以降,正常飼育対照群の口腔体性感覚野において約10Hzの振動性電場電位および振動性光学応答が誘発され,この振動はD-AP5によって阻害された。ところが歯牙喪失群においては,振動は誘発されなかった。さらに,味覚野から口腔体性感覚野への信号伝播距離および伝播速度は歯牙喪失群において著明に低下していた。これらは発達期歯牙喪失がN-methyl-_D-aspartate (NMDA)受容体活動に依存するニューロン活動を低下させ,口腔体性感覚野と味覚野間の神経連絡の発達を阻害したことを示している。以上の結果から,成長期における健全な口腔機能の発達と維持が大脳皮質における口腔感覚情報処理機能の発達に重要であることが示唆された。