戊辰戦争諷刺錦絵の世界史的位置 : 国民国家草創期における民衆思想
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概要
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小稿は、戊辰戦争諷刺錦絵が有する思想史的特質を、同時期ヨーロッパの諷刺画と比較することで、その世界史的位置の解明を試みたものである。戊辰戦争諷刺錦絵の傑作二作品は、天皇は薩摩の傀儡に過ぎないと主張し、予測される江戸親征や奥羽親征に対して反発を表明していた。この背景には、薩摩藩が戦争直前に江戸市中で強盗を働いたこと、その薩摩が新政府軍の中心にあって天皇を担いでいること、などを江戸の民衆が熟知していたことがある。また、先行する諷刺諸文芸において、多くの激しい天皇諷刺があったことも背景となっている。ヨーロッパには、戊辰戦争諷刺画と共通するセンスが半世紀も前に見られた一方、戊辰戦争と同時代には、日本にはない、思想性において高水準の諷刺画もみられた。また、日本の諷刺画家がヨーロッパの諷刺石版画を見てヒントを得たのではないか、と思われるものもあった。ヨーロッパと相違して、政治の完全な埒外におかれていた江戸の民衆は、一枚一枚売り捌かれる錦絵によって政治への関心を高め、国民国家創造の方向に寄与しうる政治的見解を表明していったのである。
- 2007-03-15