後日談であることを拒絶する長崎原爆文学 : 女性視点と日常性
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概要
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過去の事件を小説作品に描く時、一般的に、現在という時点から過去を回想する「語り」が採用される。その際、「語り」は、どうしてもある種の「後日談」の色合いを帯びることになる。原爆投下とその後の惨禍という歴史的事件も、時間の経過とともに、回想という形式で語られることが多くなっていく。そのことは、描かれた被爆者の現在が、原爆の「後日談」として読者に読まれ得ることを意味する。しかし、被爆から四半世紀を経た一九七〇年以降、佐多稲子、後藤みな子、林京子といった女性作家によって書かれた長崎の原爆作品群は、単なる後日談という範疇に括ることは許されない。原爆によってもたらされた恐怖や暗い運命が、今なお日常的に持続し、日々更新される現在の問題として描かれているからである。このことは、子供を生み、育て、未来に深く関わる性である女性の視点から作品が書かれていることによる。
- 2007-03-01