一般入射角楕円対面回折格子の幾何光学的基礎理論と光線追跡計算
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概要
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分光器の基本的な構成は、入射スリット、コリメーター鏡(コリメーターレンズ)、分散素子、カメラ鏡(集光レンズ)、出射スリット或いは写真乾板とその取枠、さらに、波長走査機構、波長指示計あるいは暗箱などである。また、分散素子としては波長による屈折率の差を用いるプリズムと、波長による回折の大きさの違いを用いる回折格子に大別できる。一般に、波長が2000A以下の極端紫外線領域では、光学素子の数が少なくてすむ、回折格子分光器が用いられる。回折格子分光器を構成する回折格子と、他の補助光学素子の幾何学的配置に関する基礎理論が、回折格子理論であって、この理論は、実験室における分光器設計は勿論、宇宙物理学用観測機器、あるいは、それらの基礎実験用機器の設計、シンクロトロン軌道放射用機器、またはプラズマ観測機器の設計などに活用されている。回折格子に関する研究は、歴史的にも古く、数多くの研究を見ることができる。Beutlerは、3次元空間内の点光源を取り扱った一般理論を展開した。続いて、Namiokaは、Beutlerの理論の誤りを訂正、これを拡張して体系化し、その結果を用いて新しい型式の分光器を開発した。しかし、これらの理論では、off-plane mountingに対する理論展開が、in-plane mountingからの近似計算になっているので、その結果として、誤差が生じることになった。Wernerは、回折格子の方程式を級数展開形で表し、off-plane mountingに適用できる理論を展開し、主回折光線上の一点に収束する光線の回折格子面上の、回折点の軌跡が、収束位置により変化することを見出したが、近似の精度が悪かったため収差計算に不正確さをきたした。また、これらのどの理論においても、光源の光の各波長に対するスペクトル形状を観測する場合に欠くことのできない非点収差を完全に除去する解析計算と、その結果に基づく分光器の設計方法を見出していない。一般に回折格子を用いた分光器においては、非点収差が現れるという特徴があり、これが、この分光器の欠点の一つである。そこで非球面回折格子を用いて非点収差を除去するための理論的研究、及び、実験的試みがなされてきた。なかでも、Namiokaによる楕円対面回折格子理論は代表的なものであるが、off-plane mountingにおける取扱いが、in-plane mountingからの近似計算から成っている。また、Fermatの原理を光路関数に適応して得られる二つの方程式のうち、主平面方向の曲率半径を含む方程式を解き、これと垂直な方向の曲率半径を含む方程式に代入して得られる解をもって非点収差のない条件としている点は、従来からの凹面回折格子理論に見られる論法と変るところがない。本論文においては、Fermatの原理を光路関数に適応した際に得られる二つの方程式、即ち、主平面方向の曲率半径を含む方程式と、これに垂直な方向の曲率半径を含む方程式とを連立させて解いた。このことは完全焦点を与える解を導きだすことを意味している。近年、Jovinn-Yvon社によって定焦点のholographic回折格子を回転させることによって全波長にわたって結像性のよい単色計が開発製作されたという報告もあるが、Namiokaによる非点収差のない条件は、特定波長のときのみ成り立っ条件であり、また、Jovin-Ivon社により開発された単色形も完全に非点収差が除去されたというものではない。本論文では、幾何光学の基本原理であるFermatの原理に忠実に従い、楕円体面の条件のもとで、その変分原理を解き、inplane mounting、off-plane mountingのいずれの場合をも含む「一般入射角楕円体面回折格子理論」を展開した。また、光線追跡法により、楕円体面回折格子とトロイダル面回折格子の結像特性について比較検討を行い、トロイダル面回折格子を用いた分光器の実用性について述べ、この理論のもとに、非球面回折格子を用いて全波長領域にわたって非点収差を完全に除去し得る全く新しい型の分光方式を考案した。
- 2001-05-31