多次元振動分光スペクトルによる散逸性量子トンネル過程の理論的解析(修士論文(2004年度))
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概要
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散逸の影響を受ける量子トンネル過程は、物理学から化学そして生命現象に至るまで多くの分野において重要な役割を果たしており、これまでにも精力的に調べられてきた。しかし、その理論的取扱いや実験的観測の難しさが、多くの興味ある問題の解決を困難なものにしている。本研究では、有色ノイズを生む調和振動子熱浴と結合した1次元対称二連井戸ポテンシァル系を考察する。この系は、分光学的にも興味が持たれている凝縮相中のプロトン移動異性化反応を記述するモデルである。系と熱浴の相互作用としては、散逸(縦緩和と横緩和)を引き起こす従来の線形-線形結合だけでなく、周波数揺動による純粋位相緩和を誘起する非線形-線形結合をも考慮する。このような系に対して、久保の確率過程的Liouville方程式を拡張したGauss-Markov量子Fokker-Planck方程式を解き、双極子μ(Q^^^)の四体相関関数で定義される二次元赤外シグナルを計算した。その結果、入射レーザーパルスの位相整合条件で決まる特定の方向で観測される二次元赤外シグナルの非対角ピークから、トンネル分裂準位間の熱的励起・緩和過程が分離されて観測できることが示される。トンネル分裂準位という真に量子的な系に対する凝縮相の散逸効果を視覚的に捕らえることができるのである。また、従来の実験技術では測定が困難であった凝縮相中のプロトン移動反応の速度定数が、二次元赤外スペクトルからは簡単に評価できる可能性が示される。多次元振動分光法は、凝縮相化学反応の速度定数を測定する新しい技術であると言えよう。
- 2005-11-20