微視的測定手段を用いた3角格子コバルト酸化物Na_xCoO_2・yH_2Oにおける磁性と超伝導の研究(修士論文(2004年度))
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概要
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新奇3角格子コバルト酸化物超伝導体Na_xO_2・yH_2Oは2003年にTakada et al.により発見された。結晶構造は、銅酸化物高温超伝導体やSr_2RuO_4と同じく層状構造を取るが、これらの物質では伝導面が2次元正方格子を形成しているのに対し、Na_xCoO_2・yH_2Oでは伝導を担うCoO_2層は3角格子を形成している。Na_xCoO_2・yH_2Oの超伝導は幾何学的フラストレーションを内在する2次元3角格子上で実現しており、注目を集めている。本研究ではこの物質においてCo-NQR測定を行い、超伝導の性質を調べた。まず、Sakurai et al.により作成された純良な粉末試料(T_c〜4.7K)を用いて核スピン・格子緩和率1/T_1の測定を行った。超伝導転移温度T_c直下にコヒーレンスピークが見られないこと、T_c以下の温度依存性がT^3に比例していること、そして最低温付近ではTに比例する振る舞いに移り変わることからこの物質における超伝導が異方的超伝導として理解されることを示した。母物質である無水Na_xCoO_2(x〜0.7)の層間にソフト化学の方法を用いてH_2Oを導入することにより超伝導が発現するが、層間に導入された水分子は常温常圧において非常に不安定である。この不安定性のため、超伝導性の試料依存性が大きい。我々は試料依存性の研究をするため、純良な試料から一炭水を抜いて水1層の試料を作り、その後飽和水蒸気中で再び水和を行った。T_cは水の濃度に敏感に反応し、低濃度になるに従って減少する。各段階の試料における1/T_1の測定からこの高い試料ではT_1以上での1/T_1Tの値の増大も大きいことが明らかになった。一方、超伝導を示さない水1層では1/T_1Tに温度依存性が無く、コリンハの関係を満たしている。温度に依存する大きな1/T_1Tの値が超伝導の発現に必要であると言える。また、この低い試料では残留状態密度が大きくなっており、この超伝導が異方的超伝導として理解されることを支持する。さらに別の7種類の試料を測定したところ、超伝導を示さない水2層の試料において磁気転移を観測した。1/T_1Tの温度変化には磁気転移温度(T_M〜5.5K)において臨界発散に起因する異常が見られている。またNQRスペクトルにも内部磁場の影響が観測される。NQRスペクトルの解析により磁気秩序状態では300 Oe程度の内部磁場が面内方向に出ていることを明らかにした。Michioka et al.によって求められた結合定数から秩序モーメントを見積もると0.015μ_Bと非常に小さい。それぞれの試料におけるT_c、T_MはNQR共鳴周波数と密接に関係している。我々はこの点に注目してNQR共鳴周波数をパラメーターとした相図を作成した。超伝導相は磁気相と隣接しており、この超伝導が磁気不安定点近傍の揺らぎと関係していることを示唆する。パラメーターに取ったNQR共鳴周波数はCoO_22層の厚みと関係した物理量である。 Co_O_2種類のフェルミ面の割合が変化する。結局NQR共鳴周波数の変化はフェルミ面の割合の変化と読みかえることが出来る。従ってフェルミ面の割合がこの物質の基底状態を決定する重要なパラメーターになっていると考えられる。 本研究ではこの超伝導体の母物質である無水Na_xCo_2(x〜0.7)のNa-NMR測定も行った。Na_xCo_2O_2次元3角格子Co_2面を持っており、幾何学的フラストレーションを内在する金属として興味深い。x=0.7の組成においては1.5 Kまで磁気秩序は起こらず金属的な抵抗率を示す。一方で磁化率は局在モーメントによって説明されるキュリーワイス的な振る舞いをする。我々はNa核の核スピン・格子緩和率とナイトシフトの解析により、この物質では100K以下から強磁性的な磁気揺らぎが発進することを明らかにした。この結果は中性子回折実験の結果とも一致している。さらに20K以下では反強磁性的磁気揺らぎの成長も見られ、磁気揺らぎの競合が起こっていると考えられる。
- 物性研究刊行会の論文
- 2005-08-20
著者
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