相転移に伴う固体における欠陥発生の研究(修士論文(2004年度))
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概要
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固体における欠陥構造の中でも特に、非線型領域での弾性効果が現れる2相合金の相分離過程における欠陥の発生機構の解明や、大変形に対する2相合金の弾性的な応答についての研究を行った。格子定数の違いが顕著な二種の金属を混合した場合、界面付近で格子定数の違いを補い切れずに欠陥が発生しやすい。こうしてできた界面のことを不整合な界面と言い、格子が界面で連続な場合を整合な界面と言う。深くクエンチした系における弾性場は、結晶の不整合な界面をはじめとする欠陥構造の現れる格好の題材である上、殆んど末開拓な領域である。さらに、理論的考察がなされていたとしても、それは分子動力学を用いたものか、静的な弾性場を仮定した方法であるため、Phase field modelで相分離と弾性場双方のダイナミクスにまで踏み込むことは今までできなかった。当研究では非線形な弾性理論であるFrenkel-Kontorovaモデルを2次元または3次元に拡張したモデルを採用し、それに加えて転位と金属の成分との双方の相互作用を解明したという点で今までにない特色を持っている。伝統的な線形な弾性モデルを非線形に拡張した上で数値計算を行い、転位と金属の成分との相互作用について以下のような結論を得た。まず、共存線よりも若干下に浅いクエンチをし、整合な界面を持った、2相合金に特徴的なドメイン構造を作り、そこで更に深いクエンチをすることで相分離が進行し、その結果自発的に整合な界面から不整合な界面へと移り変わることを確認した。その際、転位は必ずペアで発生し、結晶のすべり面は必ず2相のうち軟らかい方に優先的に進展することも確認された。この自発的な転位の発生は、従来の線形理論や転位の理論では簡潔に記述できない現象で、当研究で初めて再現された成果である。通常の1相合金では弾性変形領域以上の変形を加えると、降伏点と呼ばれる点を境に極端に応答が減少し、その後塑性変形する。一方、2相合金の場合は結晶のすべりが、析出している硬い結晶の相の境界ですべりの進行が妨げられ、明確な降伏点が現れず、弾性応答は変形していくにつれ増加し続ける。この効果は工学的に重要で、以前から良く知られていた結果であったが、今回用いた理論形式で非常によく再現されることを確認した。3次元での理論にも少し言及する。3次元ではエネルギー的な要請から転位は点状ではなく、線状を取る。通常線状の欠陥は境界から発生し、また別の境界で留まるか、ループを形成することでエネルギー的に準安定な状態を取ろうとする。このような現象を当論文の枠組で美しく再現されることを確認した。
- 2005-07-20